【特別連載】ビーチサッカー元日本代表 鈴木俊多が見たビーチサッカー「Shunta Suzuki ー Beach Soccer ー」 episode3

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みなさんこんにちは。 ビーチサッカー元日本代表の鈴木俊多です。 今回は日本代表時代のエピソードを少しお話しさせていただきます。

ビーチサッカー日本代表での活動

日の丸を背負って世界の舞台で戦うということは、誰もが味わえるものではない、とても光栄なことだった。 日本を代表して戦うのだから。もちろんそれだけの責任があり、国と国の威信をかけた戦いが待っている。

そしてその前には、代表チーム内でのサバイバルレース。生き残りをかけた戦いがある。

ビーチサッカー日本代表チームの場合、ざっくり言うと毎月約16人〜22人ほどで日本代表候補合宿を行い、その中で絞り込まれたメンバー12人がW杯本大会やアジア予選に出場できるのだ。

合宿中は同じ代表のチームメイトとして相手チームと戦うことになるのだが、それと同時にチーム内でも代表生き残りをかけた戦いが始まるのだ。 日本代表候補に選ばれるくらいの選手なので、全員が素晴らしい選手達。その中でチームメイトの誰かより上にいかなければ生き残れない。

どの世界にもある競争と同じだが“生き残ったものが正義”。 誤解を恐れずに言えば、応援してくれる人達がいる以上、誰かを蹴落としてでも残らなければいけないし、短期間でチームにどれだけ溶け込めるかや、監督などへのアピールのうまさも含めて総合的な人間力が必要になってくる。

しかし私はそれらが不足していたのだ。 お気楽で競争心の少ない性格だった私は、代表のチームメイトに対してあまり敵(ライバル)としてみる意識が持てず、アピールもうまくできなかった。「自分もできる」「自分のほうが上手い」と思っていても監督の前でうまくアピールできずにいた。自分の価値を自分で示さない限り道は開けない。

それまではサッカーに限らず極端にアピールすることを、どちらかというと“格好悪い”という見方をしていたが、私のような凡人にとって必要なときに必要なアピールができるということがとても大切だと思い知らされた。

「アピールできないということは、“その実力がない”ということだ」と、そのとき気づいたのだ。 代表での活動の中で人生にも役立つ学びがたくさんあった。

初の海外遠征

その後、幸運にも代表メンバーに選ばれた。そこから多くの海外遠征を経験することになるのだが、今回は私にとって初めての海外遠征となった、2011年ビーチサッカーW杯アジア予選について話そうと思う。

その年のアジア大会開催地は中東オマーン。 日程は1週間UAEのドバイで事前合宿を行い、その後開催国オマーンに移動。約1週間ほどの予選リーグと決勝トーナメントでW杯出場権、アジアチャンピオンをかけて戦う。

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絶対に負けられない戦い

遠征メンバーは12名。その時のチームメイトは私以外全員が何度も代表メンバーに選ばれているツワモノ揃いのメンバーだった。 私にとっては初めてづくしの海外遠征。 気を張りすぎて練習中も移動中もホテルでも気が休まるときがなかったことを覚えている。

海外遠征で驚いたのは“砂の違い”だ。 場所にもよるが、海外の砂は日本より粒が細かくてサラサラで深さもあって足がとられてしまい、日本のビーチのように走ったりボールを蹴ることができない。 めちゃくちゃキツい。力んで走ろうとしても疲れが増すだけでスピードはでないのだ。 そこでムダな力を抜いて効率的に走れるように試行錯誤した。

ドバイでの事前合宿でもっとも印象に残っているのは、監督であるラモスさんの言葉だ。

チームでの練習後、青のグラデーションの美しいドバイの海を横目に真っ白なビーチに丸くなって座る私たち選手。 ギラギラと輝く太陽をバックにラモス監督が一人ずつ全員に問いかけた。

「みんな何をしにここに来た?」 私たちは順番に全員が「アジアチャンピオンになるためにここに来ました」と答えた。

そしてラモス監督はこんなことを言った。

「ここにいるみんなが同じ気持ちだ。そしてそれができるメンバーが集まっている。あなた達は日本を代表する12名だ。ここから大会が終わるまではアジアチャンピオンを取ることだけ考えてそれに集中してほしい。みんな日本に大切な家族や仲間がいると思うけどなるべく連絡も控えてほしい。私たちは人間だからどうしても大切なファミリーになにかあれば心配だし心も落ち込んでしまう。応援してくれる仲間や日本のためにも今はアジアチャンピオンになることだけに集中しよう」

ホントの意味で全てをかけて戦う覚悟ができた瞬間かもしれない。

太陽の光が宝石のように反射する海面に負けないくらいチーム全員の目がギラギラと輝いていた。

アジアチャンピオン

ドバイでの事前合宿から開催地オマーンへ移動し、いよいよアジア大会が始まった。 初めて目の当たりにする国と国の代表チーム同士の真剣勝負はスポーツというよりも戦いだった。気迫と気迫がぶつかり合うその姿は私の目には、まるで国と国との代理戦争かのようにも見えた。

もちろんルールの中での戦い。だがそこは綺麗ごとを言っている場所ではなく、全てを尽くして「戦う」場所なのだと。サッカー観が変わった瞬間だった。

私はPIVO(ピヴォ)という攻撃のポジション。同じポジションの選手がチームに3人いる中で私は3番手。 他の2人のPIVOはこの大会で得点ランクトップを互いに争うほどに絶好調。 私の出番はなかなか訪れずチームサポートに徹していた。

チームが勝ち進んでいくのはめちゃくちゃ嬉しい。だが国と国の代表同士の激しい戦いの中で躍動するチームメイト。そんな活躍するチームメイトを見て私は、トレーニングでも同じようにプレーできない自分に自信をなくしていた。

そんなある晩、調子の上がらない私はラモス監督の部屋に呼ばれた。

「どうした?あいつら(PIVO2人)と同じようにやろうとしなくていい。俺はあいつらの代役を連れてきたんじゃなくて日本での俊多のプレーを見て連れてきたんだ。必ずチームの勝利に貢献してくれると思ってね。自分の特徴を出して思いきりやればいい」と言ってくれたのだ。

そしてアジア大会決勝戦、ついに出番がまわってきた。 海外でのデビュー戦がアジア大会優勝をかけた大一番。相手は開催国オマーン代表。 スタジアムには満員のオマーンサポーターの歓声。 流れる君が代に武者震いした。

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一気に高まる選手入場

独特な民族音楽が鳴り響く中で決勝戦が始まった。 そこに立つ私には今まで感じていた不安や恐れは一切なかった。あるのは日本で応援してくれている人達のため、チームメイトのため、そして信じて使ってくれたラモス監督のためにも必ず優勝するんだという気持ちだけ。

チームがまるで一つの生き物のように一丸となって戦い、 結果は優勝。

優勝後のピッチ。チーム全員で喜びを分かち合ったあの光景、あの雰囲気は一生忘れることはない。平凡な私がアジアチャンピオンの一員になった最高の一日。

もう一度 日本代表へ

日本代表として活動していた数年間、本当に多くのことを学ばせていただきラモス監督やチームメイト、関係者のみなさまには感謝ばかり。

ラモスさんがとても大切にしていた背番号10番をもらったこともあった。 心残りは、ラモス監督が期待してくださったほどの結果を一選手として残すことができなかったという想い。

現在33歳。ここ数年代表に選ばれていないが、ベテランと言われる歳になって以前はできなかったようなプレーもできるようになった。

必死でアピールして、もう一度日本代表に入り活躍すること。それがラモスさんをはじめ、応援してくれた方々への恩返しになると思っている。 チャレンジあるのみ。

それが選手としての現在の目標である。

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練習後のクールダウン。ラモス監督とその一味

next episode4 >> 今後の活動やビーチサッカー界の展望について

【プロフィール】鈴木俊多 – Shunta Suzuki –

Club AREIA クラブアレイア

「Club AREIA」(クラブ アレイア)」後列左から3人目 ー 鈴木俊多

元ビーチサッカー日本代表

2011年、FIFAビーチサッカーワールドカップ イタリア大会出場

現在、磐田を本拠地に活動するビーチサッカーチーム「Club AREIA」(クラブ アレイア)」の代表兼選手として活動中。2016年、2015年と2年連続で東海地区代表として全国ビーチサッカー大会出場。

2年連続東海ビーチサッカーリーグ得点王。

>>Club AREIA official site

>>Instagram 鈴木俊多

日本ビーチサッカー連盟HP:http://jbsf.or.jp

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