ミステリー、サスペンス映画は数あれど
ミステリー、サスペンス映画の名作は多い。
『セブン』、『ユージュアル・サスペクツ』、『ドラゴン・タトゥーの女』…
しかし、ダン・ブラウン原作の映画は異彩を放っています。
その理由が、宗教、科学、秘密結社という構成要素。
ほとんどのミステリー、サスペンスは殺人事件を中心に物語が進みますが、ダン・ブラウンの場合はそれが構成要素の一つでしかないのです。
作中に描かれている宗教、科学、秘密結社、歴史的建造物等はどれも実在し、これらを物語で繋いでいるような作品なので、非常にのめり込みやすく、作品の最初から最後まであたかも現実であるかのよう錯覚してしまうのです。
『セブン』もキリスト教カトリック系の「七つの大罪」を題材にしていますが、こちらは宗教自体ではなく、それになぞらえて殺人事件を起こす殺人鬼に焦点があてられています。
一般的な宗教、現実的な科学、オカルティックな秘密結社、このバランスが絶妙で秀逸。
これだけの作品を書き上げたダン・ブラウンの膨大な知識と緻密な創作力には脱帽です。
映画化不可能と言われていたが…
何億部単位で売れているダン・ブラウンの小説ですが、当初、映画化は不可能と言われていました。
まずもって題材が繊細。
科学に関しては問題ないのですが、宗教や秘密結社に関してはその方面からの圧力があるわけです。都市伝説ではありません。事実です。
そもそも、小説の冒頭に
「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述は、すべて事実に基づいている」
なんて書いてしまうものですから、小説が出版された時点でその真偽に関する議論が起きました。抗議文が送られたこともありますし、映画の上映反対のデモも起きました。
それだけ読者に影響を与えてしまうくらいのリアルな作品であると。
宗教絡みと言えば『スポットライト 世紀のスクープ』も話題になりましたが、こちらは実話であるという点で受け入れる組織が多く、映画化を止める動きは小さかったようです。
そして、一番大きな理由が撮影場所。
美術館や史跡での撮影は非常に厳しい制約、というかそもそも許可を取るのが無理と言っても過言ではありません。
実際に撮影の際には、作品の内容も相まって、ロンドンのウェストミンスター寺院やヴァチカン市国、パリのサン・シュルピス協会での撮影は許可が降りず、特大セットやCGが使われたそう。
そんな中でも快挙といえるのが、史上初のパリのルーブル美術館における撮影。
誰も許可を求めようとも思わない場所ですよね。
他にも撮影のためにイギリスのリンカーン大聖堂の鐘を第二次世界大戦以降初めて止めたり、超人気観光地の近辺を通行止めにしたり、初めてづくしだったようです。すごい。
あとは、作品に欠かせない歴史的な芸術品の数々。
絵画は実際のものも使われていたのですが、モナリザは照明を当てることが許可されなかったためレプリカだったそうです。
これだけのハードルを超えて制作された3つの映画ですが、世界で1,400億円以上の興行収入を生んだと。納得です。
ダン・ブラウンの小説、映画
ダン・ブラウンの著書は、
- 『パズル・パレス』(1998年)
- 『天使と悪魔』(2000年)
- 『デセプション・ポイント』(2001年)
- 『ダ・ヴィンチ・コード』(2003年)
- 『ロスト・シンボル』(2009年)
- 『インフェルノ』(2013年)
の6作品ですが、その中で「ロバート・ラングドン」を主人公としたシリーズ作品は
- 『天使と悪魔(2000年)
- 『ダ・ヴィンチ・コード』(2003年)
- 『ロスト・シンボル』(2009年)
- 『インフェルノ』(2013年)
の4作品です。
映画はというと、2016年の時点で
- 『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)
- 『天使と悪魔』(2009年)
- 『インフェルノ』(2016年)
の3作品。
小説のヒットをきっかけに映画化されたので『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』の公開順が逆になったようです。
また、『インフェルノ』より前に『ロスト・シンボル』が映画化される予定だったようですが、脚本作りが難しすぎて制作が難航し、先に『インフェルノ』が公開されたと。
映画と小説、ぜひ両方
個人的には映画の『ダ・ヴィンチ・コード』見てからダン・ブラウン作品にはまったので、急いで小説を全作読みました。
ただ、これがかなりヘビー。
特に「ロバート・ラングドン」シリーズは、ハードカバーであれば4作全てが上中下構成。
各巻3、400ページなので、だいたい1,000ページ前後。
しかも内容が内容なので読み応えがすごい。
しかし、ムダに長いわけではなく、必要十分。
それどころか、先に見た映画の内容、知識が補完されるだけでなく、別物と言っても良いストーリー展開を楽しむことができます。
ネタバレではありませんが、残念ながら映画では『ダ・ヴィンチ・コード』→『天使と悪魔』→『インフェルノ』と進むに連れて、物語における「犯罪」の比重が重くなっていきます。
たしかにハラハラ・ドキドキするのは良いのですが、おそらく聴衆が求めている「ミステリー」の比重が軽くなってしまっているのが気になります。制作費や撮影場所の影響も大きいとは思うのですが、教授にアクションは求めていません。
小説であればそんな不満はありません。
どちらかというと、どの作品も宗教を中心に描かれているので、分からないことは調べつつ、頭をフルに使ってやっと読破できる濃さなので1作品でお腹パンパンです。
小説と映画の違いを楽しむのもありですね。
ということで、映画から入った人は小説も読むべし。
聖地巡礼
ダン・ブラウン作品で取り上げられた場所を巡る、いわゆる聖地巡礼が世界的に流行っています。
ロスリン礼拝堂は辺鄙な場所にあり行くのが大変にもかかわらず、映画の公開後には観光客が数倍になったとか。
元々有名な場所も多いので、観光客が増えたかどうかは定かではありませんが、ダン・ブラウン作品の舞台をまとめたガイドブック等もあり、それを持ってヨーロッパを巡る人もいるそうです。
各映画作品の舞台・キーワード・あらすじ【※ネタバレあり】
作品ごとに舞台やキーワードがはっきりしているので、映画を楽しむ前に確認するのも良いかと思います。
そもそも物語がかなり複雑なので、いくらここに書いたところで「それでネタバレのつもり?」と言われかねないですが。
以下、公開順。
『ダ・ヴィンチ・コード』
夜のルーブル美術館、館長のジャック ソニエールは男から脅迫され「ローズラインの下に例のものがある」と白状するも、殺されてしまう。
パリにいたロバート・ラングドン教授は、フランス司法警察局の警部の要請でルーブル美術館へ出向き、ダイイングメッセージとして自らダヴィンチのような姿で倒れていた館長を目の当たりにする。
この殺人事件の黒幕はカトリックのカルト団体である「オプスデイ」の代表であるマヌエルであった。
ラングドン教授は館長の孫であるソフィーと、彼女が持っているネックレスを頼りにチューリッヒ保管銀行へ行き、クリプテックス(ダイヤル錠付きの書物ケース)を手に入れる。
道中、ソフィーの出自から、「テンプル騎士団」が教皇を脅してまで手に入れた宝物「聖杯」は、彼らに無限の権力を得させ、それを危機に思ったバチカンはテンプル騎士団を壊滅に追い込み、現在、教皇が聖杯を探しているという話に及ぶ。
ラングドン教授とソフィーが助けを求めて旧友のもとへ行くと、ダヴィンチの書いた最後の晩餐には男だけではなくキリストの妻であるマグダラのマリアが写っていて、この話はオプス・デイと敵対する「シオン修道会」という秘密結社によって守られているという驚くべき話を聴く。
ラングドン教授らはオプスデイの男に襲撃されるも撃退、ロンドンへ。テンプル教会でシオン修道会の総長がアイザック・ニュートンであることに気づき、彼が埋葬されているウェストミンスター寺院へ向かう。
しかし、旧友の目的はクリプテックスであり、ラングドン教授を裏切るも、知略で返り討ちにされ、警察に逮捕される。途中、クリプテックスの仕掛けで中身が失われたかと思いきや、ラングドン教授は既に中身を取り出していたのだった。
その暗号を元にスコットランドのロスリン礼拝堂へ向かうと、ソフィーは自分の祖父が怪しい儀式を行っていたことを目撃した日から祖父と絶縁状態になったこと、家族が事故死した後はシオン修道会に育てられていたことを語り、そこに現れたシオン修道会のメンバーと再会する。
ラングドン教授は、ソフィーがキリストの末裔であると告げ、彼女と別れるとフランスのパリへ。同じ暗号から、マリアの棺は現在、ルーブル美術館の下に安置されていることを確信する。
『天使と悪魔』
出典:YouTube
教皇が死去したため、新しい教皇を選ぶコンクラーベ(選挙のようなもの)が開かれようとしていたヴァチカンで、有力候補の4人の枢機卿が誘拐されてしまうと同時に「反物質」という非常に不安定な、安定性が失われれば大爆発する物質が盗まれた。
アメリカにいたロバート・ラングドン教授はヴァチカン警察の要請を受け、ヴァチカンへ。
犯人は報復を企む「イルミナティ」とよばれる秘密結社で、ラングドン教授は犯行声明等から計画を推理し、枢機卿、反物質を探すも、枢機卿4人のうち3人が殺害されてしまう。
しかし、実際に殺人を実行していたのはカメルレンゴ(教皇の側近)であるマッケナ神父に雇われた暗殺者であり、実は、前教皇もマッケナ神父が注射により毒殺していたのだった。
ラングドン教授は4人目の枢機卿をギリギリのところで救うも、反物質のありかは分からないまま。
マッケナ神父は、真相に気がついたリヒタースイス衛兵隊長とシメオン神父に襲われたように装って身辺警護に射殺させ、自分で地下に仕掛けた反物質を自分で発見したかのような演技をする。
そのままヘリに乗り、空中で反物質を爆発させて人々の命を守ってパラシュートで帰還したのだが、それは自ら英雄となり、次期ローマ教皇に指名させる計画の一環だったのだ。
コンクラーベの直前、ラングドン教授はリヒター隊長の残したマッケナ神父の悪事を収めた映像を発見し、マッケナ神父が教皇になるのを防ぐ。
逮捕されそうになったマッケナ神父は逃げ出し、「父よ、私の霊を御手に委ねます」と最後の祈りをささげ、焼身自殺したのだった。
『インフェルノ』
出典:YouTube
遺伝学者のバートランド・ゾブリストは、殺人ウィルス「インフェルノ」を拡散することにより、地球の人口増加を抑制しようとするという危険な思想を持っていた。
ゾブリストは、ウィルスを狙っていたクリストフ・ブシャールに追求されて自ら命を絶つのだが、その在り処は執心していたダンテの「インフェルノ」をモチーフとしたボッティチェリの「地獄の見取り図」に隠されていた。
ロバート・ラングドン教授はイタリアのフィレンツェにある病院で目を覚ますが、大学にいたとき以降の記憶がなく、担当医のシエナ・ブルックスに「頭をかすめた銃弾によって数日間分の記憶がない」と告げられる。
突如現れた暗殺者からシエナと共に逃げ出し、シエナの自宅で記憶を取り戻そうとノートPCでWebメールを確認すると、イニャツィオ・ブゾーニという名前と「Paradise Twenty Five(パラダイス25)」というメッセージが。
また、ラングドン教授の所持品に「地獄の見取り図」を映し出す小型のプロジェクターとゾブリストのスピーチ映像のデータがあり、そこから、ゾブリストのウィルスを撒く計画を知り、「地獄の見取り図」に隠されていた「cerca trova(探せよ、さらば見つかる)」というメッセージを見つけ出す。
ラングドン教授は米国領事館の人物と連絡を取るも、それは民間警備会社「コンソーシアム」のCEOであるハリー・シムズが雇った暗殺者であった。
ラングドン教授らは「cerca trova」というメッセージをヒントに絵画「マルチアーノの戦い」を観にヴェッキオ宮殿へ行くと、館長マルタ・アルヴァレスはラングドン教授を知っていた。
はったりで「今日もあれを見に来た」と伝えると、「今日もですか」という態度でダンテのデスマスクの展示室まで案内されたのだがデスマスクはそこになく、監視カメラ映像を確認するとラングドン教授と別の美術館の館長イニャツィオ・ブゾーニがそれを盗んでいる様子が映し出された。
マルタがブゾーニに連絡をとるとブゾーニは既に亡くなっており、拘束されそうになったラングドン教授らは、警備員たちから逃げ、追ってきた暗殺者も撃退する。
ブゾーニのメッセージである「Paradise TWENTY FIVE」というメッセージから閃いたラングドン教授はフィレンツェにあるサン・ジョヴァンニ洗礼堂へ行きデスマスクを手に入れるも、その裏には新たなメッセージが書かれていた。
ここで遭遇したブシャールがラングドン教授とは記憶喪失前に会っており、WHOの同僚エリザベス・シンスキーの狙いがウィルスをばら撒くことであると語るも、ラングドン教授はそれが嘘であると見抜く。
ラングドン教授は、ヴェネツィアにあるハギア・ソフィア大聖堂内にウィルスが置かれていると推理するのだが、そこで、シエナに裏切られる。彼女は、ゾブリストの恋人であり、彼の身に何かあったときには彼の意思を継ぐよう指示されていたのであった。
ラングドン教授を捉えたブシャールもまたシエナと共謀していたのだが、そこに現れたシムズがブシャールを殺害してしまう。ウィルス情報を横流しして不正を働こうとしていたのはシンスキーではなく、ブシャールだったのだ。
ゾブリストはシムズの顧客であり、それを理由にWHOとも敵対していたが、彼の死後、その依頼内容が故に実行するわけにもいかず、彼のたくらみを阻止すべく同じくラングドン教授を探していたWHOの職員エリザベス・シンスキーに協力することにしたと。
実は、ラングドン教授はエリザベスにウィルスの捜索を依頼された直後に、シムズがシエナと協力してラングドン教授を誘拐し、謎解きをするように仕向けたのがことの始まりであった。
ラングドン教授はシムズに助けられシンスキーと再会しイスタンブールのアヤソフィア構内のエンリコ・ダンドロの墓へ。そこで地下水の音を聞くと、ウィルスの拡散場所が地下貯水池「イエレバタン・サラユ」であると突き止める。
ウィルスは容器に入れられ水中に隠されていた。
シエナはシムズを殺害し、ウィルスの設置された場所を爆破してウィルスを拡散させようとするが、電波妨害によって爆発はしなかった。
シエナは、自ら水中で爆弾を爆発させるも容器は破損せず、ウィルスが拡散することはなかった。シエナの仲間がなおも拡散させようとするが警察によって射殺され、無事、解決。
誘拐された際に紛失したミッキーマウスの腕時計を返されたラングドン教授は名残惜しくもシンスキーと別れ、美術館に戻り、そこで警備員にダンテのデスマスクにライトアップするよう言う。
警備員が部屋に入るとマスクがそこに。ラングドンは、笑顔で立ち去るのであった。